夜の神社というのは、昼間とはまったく別の場所になる。
茂原の外れにある小さな神社を、帰り道に通ることがあった。人通りも少なく、昼間でも静かな場所だが、夜になるとその静けさは“音が消えた”ような不自然さに変わる。
あの日も、特に何も考えずに境内を横切ろうとしていた。
そのときだった。
「カラン……」
鈴の音が鳴った。
拝殿の前にある、あの参拝用の鈴だ。
反射的に足を止める。こんな時間に参拝する人がいるのかと思い、そちらを見る。
誰もいない。
風も吹いていない。鈴が揺れる理由はない。
しばらくその場に立っていると、もう一度鳴った。
今度はさっきよりもはっきりと。
「カラン……」
視線を向けると、そこに人が立っていた。
拝殿の前に、一人の人影。背中を向けて、まるで普通に参拝しているように見える。
だが、その姿にはどこか違和感があった。
動いていない。
鈴は確かに揺れているのに、その人影は一切動かない。腕も上げていないし、頭も下げていない。ただ立っているだけなのに、鈴だけが鳴っている。
ゆっくりと、その人影がこちらを向いた。
顔はよく見えない。だが、確実に“目が合った”と分かった。
その瞬間——
消えた。
音もなく、最初からいなかったかのように。
だが鈴だけは、その後もしばらく鳴り続けていた。
あの神社を通るとき、今でも無意識に視線を外してしまう。
もしまた目が合ったら、今度は——消えるのはこちらかもしれない。
