茂原のビジネスホテルに泊まったときの話だ。
夜、隣の部屋から話し声が聞こえてきた。男女の会話のようだったが、内容ははっきりしない。
壁が薄いのかと思いながらも、少し気になってフロントに確認した。
「隣は空室です」
そう言われた。
部屋に戻る。
やはり、声は聞こえる。
今度はさっきよりも近い。
壁のすぐ向こうから。
耳を当てる。
その瞬間、声が止まった。
代わりに、何かが擦れる音。
次の瞬間——
壁から手が出てきた。
指先だけが、こちらに向かって伸びている。
慌てて後ろに下がる。
手は引っ込んだ。
その後、声は一切聞こえなくなった。
チェックアウトのとき、隣室のドアを見る。
ドアノブに、内側から付いたような傷があった。
まるで、外に出ようとした跡のように。
