夜の外房を車で走っていると、妙に感覚が鋭くなる。
街灯が少なく、対向車もほとんどない。自分の車のライトだけが道を照らし、その先に何があるのか分からないまま進んでいく。
あの日も、仕事帰りに一人で車を走らせていた。
ふと、違和感に気づいた。
助手席のシートベルトが、わずかに揺れている。
最初は路面の振動かと思った。だが、揺れ方が不自然だった。規則的ではなく、まるで誰かが触れているような動き。
視線を向ける。
誰もいない。
だが次の瞬間、シートベルトが「カチッ」と音を立てた。
まるで誰かが装着したように。
心臓の鼓動が一気に速くなる。
そのまま前を向き、運転を続ける。ミラーを見るのが怖かった。
だが、確認せずにはいられなかった。
バックミラーを覗く。
後部座席に、誰かが座っていた。
濡れたような髪、うつむいた顔。はっきりとは見えないが、“人”であることだけは分かる。
次の瞬間、その姿が消えた。
安堵する間もなく、助手席から重みを感じた。
隣に——座られている。
そのまま、家まで一度も横を見なかった。
エンジンを切り、恐る恐る助手席を見る。
シートは、確かに沈んでいた。
誰もいないのに。
