「いや……それ、本当にやるんですか?」
最初にそう聞かれたのは、たしか合宿の数日後だった。
会議終わりの商工会議所。
帰る準備をしていた時、後ろから声が飛んでくる。
「怪談ライブって、ガチのやつですよね?」
振り返ると、半笑いの顔が並んでいた。
冗談っぽく聞いている。
でも、半分は本気だったと思う。
「やりますよ」
そう返すと、
「いやぁ……攻めますねぇ」
誰かが笑った。
その頃には、出店の話で空気がかなり動いていた。
一般公募。
地域団体。
出店エリア。
色んな話が前に進き始めている。
でも、その横で、もう一つ別の話が動いていた。
——怪談ライブ。
正直、かなり異質だったと思う。
七夕祭りで怪談。
普通に考えれば、あまり結びつかない。
「なんで怪談なんです?」
その質問は、本当に何回も聞かれた。
でも、自分の中では割と最初から繋がっていた。
むしろ、七夕だからこそ怪談だった。
祭りの夜には独特の空気がある。
昼間とは違う。
人混みの熱気が少し落ちて、屋台の明かりだけが浮いて見える。
湿った風。
遠くから聞こえる笑い声。
歩いている人たちも、どこか少しだけ気が緩んでいる。
その空気の中に、“物語”を置きたかった。
ただのステージイベントじゃない。
七夕の夜に、少しだけ異質な時間を作りたかった。
怖い話って、人を止める。
歩いていた人間が、ふと立ち止まる。
「なんだろう?」
って、振り向く。
しかも怪談は、夏と異常に相性がいい。
だから、多分成立すると思っていた。
もちろん、不安がなかったわけじゃない。
「いや、誰呼ぶんです?」
「予算どうするんです?」
「人、本当に来ます?」
会議室でも、飲みの席でも、何回も同じ話になる。
まだ出演者も決まっていない。
場所も完全には固まっていない。
今思えば、この時点ではほとんど“構想”だった。
でも、不思議とやれる気はしていた。
根拠というより、感覚に近い。
これをやらないと、多分変わらない。
そんな感覚だった。
今までと同じことを、今まで通りやる。
それで維持はできるかもしれない。
でも、多分、それだけじゃ広がらない。
だから、少し空気をズラしたかった。
「なんで七夕で怪談?」
その違和感自体に意味があると思っていた。
ある日の会議。
資料を見ながら、誰かがぽつりと言う。
「でもまぁ……絶対話題にはなりますよね」
その瞬間、少し空気が変わった。
否定ではなく、“どうやるか”の空気に変わり始める。
多分、この頃からだった。
怪談ライブが、“変な案”じゃなく、“やる前提の企画”として動き始めたのは。
会議が終わって外に出る。
夜風が少しだけ湿っている。
遠くで誰かが、
「いやぁ、でも七夕で怪談かぁ……」
と笑っていた。
その声を聞きながら、少しだけ思った。
多分、そうやって引っかかる時点で、もう勝ちなんだろうな、と。

