外房の田んぼ道は、夜になると本当に暗い。
街灯もまばらで、月明かりがなければ、自分の足元すら見えない。そんな道を、帰り道に歩いていたときのことだ。
ふと足元を見ると、違和感に気づいた。
影が、二つある。
街灯は一つしかない。なのに、自分の影が二方向に伸びている。
最初は目の錯覚かと思った。だが歩くと、影も一緒に動く。
問題は、その動き方だった。
一つは自分と完全に同期している。だがもう一つは、わずかに遅れて動いている。
一歩遅れて。
試しに立ち止まる。
すると、一つの影だけが、もう一歩進んだ。
ゆっくりと振り返る。
そこには何もない。
だが足元の影だけが、確実に“もう一人分”存在している。
その日は走って帰った。
それ以来、夜の田んぼ道では、自分の影を見ないようにしている。
もし、また二つあったら——今度はどちらが自分なのか、分からなくなりそうで。
