「もう、人づてはやめよう。」
事務所で一人、そう口にした。
誰かに聞かせるためじゃない。
自分に言い聞かせるような独り言だった。
ここ数日、いろんな話が耳に入ってきていた。
「ああ言ってたらしい。」
「こういう話を聞いた。」
気付けば、誰かの話には必ず"誰かから聞いた"が付いている。
どこで変わったのかは分からない。
最初から違ったのか。
途中で変わったのか。
もう考えても答えは出ない。
だったら、やることは一つだった。
人づてをやめる。
自分で伝える。
それだけだった。
その夜、パソコンを開く。
Instagram。
ホームページ。
百物語。
開いているブラウザの数だけ、伝える場所が増えていた。
「何をやるか」じゃない。
「なぜやるのか。」
そこから書こうと思った。
一般公募と言った理由。
地域団体にこだわった理由。
怪談ライブをやる理由。
百物語を作った理由。
結果だけを見れば、一行で終わる。
でも、そこに至るまでには、ちゃんと理由がある。
だったら、それも残そう。
成功だけじゃなく。
失敗も。
反対されたことも。
迷ったことも。
全部。
そうすれば、少なくとも誰かが勝手に作った物語じゃなくなる。
本当の顛末になる。
キーボードに手を置く。
何から書こうか。
少しだけ考えて、一行目を打った。
「まだ委員会は発足していなかった。」
その一文が、この『七夕顛末記』の始まりになった。
書き終えた頃には、時計は日付を跨いでいた。
投稿ボタンを押す。
スマホを机に置いて、深く息を吐く。
どれだけ読まれるかは分からない。
誤解が全部なくなるとも思っていない。
それでも、一つだけ確かなことがあった。
もう、人づてじゃない。
この言葉だけは、自分の言葉だった。

