「いや、それ誰が見に来るんです?」
その言葉に、少しだけ空気が止まった。
夜だった。
商工会議所を出たあと、数人でそのまま居酒屋に流れていた。
テーブルの上には串の皿と、溶けかけた氷。
誰かがタブレットで出演候補を調べている。
怪談ライブの話になると、最近は自然とみんな前のめりになるようになっていた。
「牛抱さん来たらかなり強いですよね」
「いや、でもそれだけじゃ弱くないですか?」
「もっとデカい名前欲しくない?」
酒が入っている分、本音がそのまま出る。
その中で、一人がぽつりと言った。
「いや、それ誰が見に来るんです?」
その瞬間、妙に静かになった。
誰も否定できなかった。
企画として面白い。
空気もある。
物語もある。
でも、“人が来るか”は別の話だった。
祭りのイベントって、そこから逃げられない。
どれだけ思想があっても、結局、人が集まらなければ成立しない。
出店も回らない。
スポンサーもつかない。
全部、そこに繋がっている。
「……ぁみさん、どうです?」
誰かがスマホを見ながら言った。
その名前が出た瞬間、数人が顔を上げる。
「あぁ……」
反応が変わった。
その空気だけで分かる。
みんな、“意味”を理解していた。
正直に言えば、この人に関してはかなり明確だった。
——集客。
そこは綺麗に言い換えるつもりもなかった。
むしろ、その役割が必要だった。
発信力がある。
人を呼べる。
その事実が大きい。
怪談ライブを“企画”で終わらせず、“イベント”として成立させるには、その力が必要だった。
でも不思議だった。
ただ数字が欲しかったわけじゃない。
もしそれだけなら、もっと別の選択肢もあったと思う。
ただ、ぁみさんの名前が出た時だけ、妙に景色が浮かんだ。
人が集まっている景色。
ざわつく夜。
「あれ何やってるんだ?」
って、足を止める人たち。
その空気が自然に見えた。
「でも、来てくれますかね」
誰かが言う。
「いや、分かんないっす」
そう返しながら、頭の中ではもう考え始めていた。
どう話すか。
どう企画を見せるか。
何を面白がってもらうか。
窓の外では、雨が降り始めていた。
ガラスに水滴が流れていく。
店の奥では別のグループが笑っている。
その雑音を聞きながら、ぼんやり思っていた。
多分ここから先、“怪談好きが集まるイベント”じゃ足りない。
もっと大きく、祭りの空気そのものを変えないといけない。
そのためには、人を呼べる存在が必要だった。
だから、このカードは絶対に必要だった。
後日、本当に話が進き始めた時、周りの空気は明らかに変わった。
「あ、これマジでやるやつだ」
誰かがそう呟いていた。
その感覚は、自分も少し同じだった。
企画が、少しずつ現実になり始めていた。

