外房の川にかかる橋は、夜になると妙に静かだ。
車の音も届かず、水の流れる音だけがやけに大きく聞こえる。あの日、何となく立ち止まり、橋の下を覗き込んだ。
水面に顔が映る。
当然、自分の顔だと思った。
だが、違った。
見覚えのない顔が、こちらを見ている。
一瞬、理解が追いつかない。
もう一度、よく見る。
やはり自分ではない。
その顔が、ゆっくりと笑った。
反射的に顔を上げる。橋の上には自分しかいない。
再び水面を見る。
今度は自分の顔が映っている。
だが、その口元は——まだ笑っていた。
それ以来、鏡を見るとき、わずかにタイミングがズレている気がする。
自分より、少しだけ先に。
