外房の海沿いに、もう使われていない工場がある。
地元では有名な肝試しスポットで、夜になると何人かが興味本位で入り込む。私も、その一人だった。
錆びた扉の前に立つ。中は真っ暗で、懐中電灯の光が飲み込まれるようだった。
そのとき、奥から声が聞こえた。
最初は、ただの反響音かと思った。だが違う。複数の人間が、普通に会話をしている。
「いや、それは違うだろ」
「いやいや、お前が——」
内容は曖昧だが、明らかに“会話”だった。
中に人がいるはずがない。
扉に耳を当てる。
その瞬間、会話が止まった。
そして、ひとつの声だけがはっきり聞こえた。
「次は、お前だ」
直後、扉が内側から激しく叩かれた。
慌てて逃げた。
後日、その場所を調べたが、工場は十年以上前から完全に閉鎖されているらしい。
それでも、夜になると“中では何かが続いている”。
そんな気がしてならない。
