外房線に乗る人なら、一度は感じたことがあるかもしれない。
夜の電車というのは、昼間とはまるで別の乗り物になる。特に、乗客が少ない時間帯になると、車内は妙に静かで、自分の存在だけが浮いているような感覚になる。
あの日もそうだった。
仕事帰り、ほとんど人のいない車両に乗り込んだ。窓際の席に座り、ぼんやりと外を眺める。やがて電車はトンネルに入った。
窓に、自分の顔が映る。
その後ろに——もう一人、いた。
反射的に振り返る。だが、座席は空いている。周囲にも人影はない。
気のせいか。
そう思って、再び前を向く。
次のトンネル。
今度ははっきり見えた。自分の肩越しに、誰かがこちらを覗き込んでいる。顔の輪郭はぼやけているが、確実に“視線”がある。
急に背筋が冷たくなる。
トンネルを抜ける。
普通なら、そこで窓の映り込みは消えるはずだ。
だが、その影は消えなかった。
昼間の景色の中に、はっきりと残り続けていた。
それどころか、少しずつ距離を詰めてくる。まるで、ガラス一枚を隔ててこちらに近づいてくるように。
耐えきれず、席を立った。
その瞬間、窓に映っていた影が——
自分のいた席に、座った。
次の駅で降りたが、それ以来、夜の外房線では窓を見ないようにしている。
