段ボール箱を寸法計測機に通すと、奥行きの欄に「-2.4cm」と印字された。箱は潰れておらず、巻尺を当てれば四十二センチある。誤作動だと思って再計測した瞬間、背後で台車の金属枠が棚に擦れた。さっきまで人一人が通れたはずの隙間に、台車の取っ手が挟まっていた。
九月最初の水曜日、坂井は通販商品の返品倉庫で遅番を担当していた。午後四時を過ぎると回収便が着き、衣類や調理器具の箱がベルトコンベヤーへ並ぶ。計測機は箱の縦、横、奥行きを読み取り、白いラベルを吐き出す。窓から西日が差す時間で、作業場には梱包テープを引く乾いた音が絶えなかった。
問題の箱には、無地のクッションが一枚入っているだけだった。坂井は光学センサーにテープ片が付いたのだろうと考え、レンズを布で拭いた。比較のため空箱を通すと正常な数値が出る。ところが問題の箱だけは、三度目に「-4.8cm」となった。冗談好きの同僚を疑ったが、ラベルの設定画面に負の数を入力する項目はなかった。
四度目の計測で「-7.2cm」が印字されると、作業台と壁の間隔が目に見えて狭くなった。壁も台も動いた跡はないのに、床の黄色い区画線が途中でたるみ、七センチほど重なっている。坂井が巻尺で測る間にも、蛍光灯の光が棚板に遮られ、足元の明るい帯が細くなった。箱の寸法だけは四十二センチのままだった。
坂井は再計測を止め、箱を床へ下ろした。同僚に入口から動かないよう頼み、柱と作業台の距離を油性ペンで床に記す。防犯映像では、棚も人も一度として動いていなかった。ただ箱が機械を抜けるたび、映像の右端が細く切り取られ、次の瞬間には切れた分だけ室内がつながり直していた。部屋そのものが削られているようだった。
自動搬送が再開し、床の箱がベルトへ引き戻された。計測機から長いラベルが吐き出され、先頭には「梱包対象・返品検品区画」とあった。棚が音もなく迫り、非常停止ボタンまでの距離が腕一本分縮む。箱の蓋がひとりでに開き、その底に、真上から見た作業場と二人の小さな影があった。同僚が動くと、箱の中の影も同じ方向へ一歩動いた。
坂井はラベルをつかみ、機械から引き剥がした。紙は途中で裂けず、棚の裏からまで伸びてくる。非常用の裁断刃を同僚が下ろすと、白い帯が切れ、圧縮された空気が弾けるような音とともに棚が元の位置へ戻った。箱の中は空だった。翌朝、区画は封鎖されたが、回収されたラベルは十一メートルあり、装填されていたロールの残量より長かった。
一週間後、坂井が帰宅すると、玄関扉の内側に見慣れた白いラベルが貼られていた。品名欄は空白で、梱包対象には部屋番号、寸法欄には彼の部屋と同じ数値が並んでいる。奥行きだけが「-0.3cm」だった。剥がそうと腰をかがめたとき、昨日まで指二本分空いていた靴箱と扉の隙間へ、爪の先すら入らないことに気づいた。
※本作は創作怪談です。
