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ホームストーリー百物語_壱第74話
第74話
夜の百物語

最後の乗客

第74話 / 100話まであと26話

2026/8/7約2分で読めます

終電に飛び乗ったのは、日付が変わる少し前だった。

車内は静かだった。

仕事帰りらしい人が数人いたはずなのに、気づけば誰もいない。

「終点です。」

車掌のアナウンスが流れても、私は疲れ切って立ち上がれなかった。

ようやく荷物を持ち、ホームへ降りる。

駅はひどく静かで、売店も改札も灯りだけが残っていた。

改札へ向かう途中、運転士が私を見て不思議そうな顔をした。

「お連れの方は?」

「え?」

「ずっと隣に座っていたでしょう。」

思わず笑ってしまった。

「一人ですよ。」

運転士は首をかしげたまま運転席へ戻っていった。

帰宅しても、その言葉だけが頭から離れない。

翌日。

財布を開くと、見覚えのない古い乗車券が一枚入っていた。

印字は消えかけ、行き先も読めない。

裏には鉛筆で、小さく数字が書かれていた。

「2」

誰かの忘れ物だろう。

そう思って捨てようとしたが、なぜか手が止まる。

翌週も、その次の週も、仕事が遅くなる日は決まって同じ電車に乗った。

そして三度目の夜。

窓ガラスに映る自分の隣。

ぼんやりと人影が見えた。

顔までは分からない。

ただ、こちらを向いて座っている。

振り返っても誰もいない。

窓を見ると、まだ座っている。

目を閉じ、次の駅で降りよう。

そう決めて立ち上がると、隣の座席から紙が一枚滑り落ちた。

あの古い乗車券だった。

裏を見る。

数字は、

「1」

に変わっていた。

慌ててホームへ飛び出し、振り返る。

閉まりかけたドアの向こう。

誰もいない車内で、一つだけ座席が沈んでいた。

まるで、誰かがまだ座っているように。

それ以来、終電には乗っていない。

けれど夜遅く、電車が通る音を聞くたびに思い出す。

もしあの日、終点で降りるのが少し遅れていたら。

あの席に残っていたのは、誰だったのだろう。

#百物語#創作怪談#怪談#都市伝説#ホラー#怖い話#電車怪談#夜明け#読書#地域の物語

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