大型プレス機から吐き出された白いシーツを受け取った瞬間、布の向こうから手のひらを押し当てられた。指の形まで分かるほど、くっきりとした膨らみだった。向かい側には誰もいない。私は反射的に手を離したが、シーツは床へ落ちなかった。見えない誰かが反対側を持つように、胸の高さで一瞬だけ張ったあと、力を失って作業台へ滑り落ちた。熱いはずの布の、その部分だけが濡れた肌のように冷たかった。
私が働いていたのは、宿泊施設などから集めたリネンを洗浄し、乾燥、プレス、梱包する郊外の工場だった。午後の仕上げ工程では機械の熱気と洗剤の匂いが充満し、ローラーの低い回転音が休みなく床を震わせる。私は同僚の佐和さんと向かい合い、大判のシーツを両端から引いて折る担当だった。白い布が風を含んで持ち上がり、二人の顔を隠すのも日常の光景で、普段なら気に留めることさえなかった。
最初のことは、静電気か、プレスされた布に空気が残ったせいだと思った。ところが休憩後、佐和さんが別工程へ呼ばれ、一人で端を揃えていると、垂れたシーツの裏側を誰かの指がゆっくり滑った。布越しに五本の細い筋が肩の高さまで上がり、そこで止まる。私は勢いよくシーツをめくった。もちろん作業台の向こうは空だった。送風口の風だろうと考え、気味の悪さをごまかすように布を畳んで台車へ押し込んだ。
夕方、佐和さんが戻ると妙なことを言った。「さっきから、畳むの手伝ってくれてるの誰?」私が聞き返す間に、二人の間で広げたシーツが内側から持ち上がった。人がしゃがんで立ち上がるように布の中央が膨らみ、頭らしい丸みと肩の傾斜ができる。洗剤の匂いに混じって、雨に濡れた制服のような湿った匂いがした。佐和さんが手を放すと、膨らみは彼女の側ではなく、私の胸元へ布を押し出してきた。
私はシーツを床へ投げ、班長を呼びに走った。戻ってきたころには布は平らに落ちており、班長は機械に巻き込み癖がないか確認してから、念のため作業を止めた。ところが停止したプレス機の奥で、布を擦り合わせる乾いた音がした。機械の中には次のシーツが入っていない。私が覗こうとすると、佐和さんが腕をつかんだ。排出口の隙間から白い指先のようなものが現れ、作業台を探るように左右へ動いていたからだ。
次の瞬間、ローラーが停止したままなのに、排出口から白布がするすると垂れ始めた。それは床へ落ちず、人の上半身を包んだ形で立ち上がった。透けた布の下に顔はなく、代わりに二本の腕だけが妙に鮮明だった。そいつは私たちが毎日しているように布の端をつまみ、折り目を作る。そして片腕だけを布から抜き出すと、私の制服の袖をつかんだ。布越しではない冷たい指の感触に、私は腕を振りほどき、佐和さんと非常口まで走った。
その日の仕上げ工程は中止になった。翌朝、点検業者がプレス機を調べたものの、布が勝手に排出されるような故障は見つからなかったという。私は配置を変えてもらい、しばらく梱包作業だけを担当した。佐和さんもあの話を人前ではしなかった。ただ、二人とも大判の白布を広げる作業には近づかなくなった。数日後、私の作業着がクリーニングから戻ってきたとき、右袖だけが誰かと握手したまま畳んだように、不自然な形で固く折れていた。
秋になり、私はその工場を辞めた。新しい職場では制服もなく、白いシーツを見る機会もほとんどない。それでも先週、衣替えで押し入れから冬用の掛け布団を出したとき、圧縮袋の透明なビニールの内側に手の跡があった。外から触れた跡ではない。袋を開けずに見ていると、その五本の指がゆっくり曲がり、こちら側から差し出した私の手と同じ形になった。私はまだ、その袋の空気を抜いたままにしている。
※本作は創作怪談です。
