乾燥機から取り出した白いシーツが、腕の中でふくらんだ。空気が抜けただけだと思った直後、今度は胸に押しつけた部分だけが、ゆっくり持ち上がった。吸って、吐くような動きだった。驚いて台へ放すと、布は何事もなかったように平らになる。まだ温かく、洗剤の甘い匂いがした。その下から、もう一つ別の、湿った畳のような匂いがした。
私は月曜の仕事帰り、アパート近くの小さなコインランドリーで一週間分をまとめて洗う。明るい蛍光灯、乾燥機の低い回転音、壁際の黄色い椅子。買い物袋を足元へ置き、乾いたものを畳んで帰るだけの場所だ。その日は雨上がりで、入口のガラスが少し曇っていた。店内には私と、奥で作業着を畳んでいる男性しかいなかった。
シーツを広げると、中央に手のひらほどの冷たい場所があった。乾燥不足だろうと思い、生地をつまんで確かめたが濡れてはいない。しかも冷たさは指先から逃げるように布の奥へ移った。エアコンの風かと思って天井を見たとき、作業着の男性がこちらをちらりと見て、急に畳む手を止めた。それでも何も言わず、洗濯物を袋へ押し込んで店を出ていった。
私も帰ろうとシーツを二つ折りにした。その瞬間、折り目の内側を何かが這った。鼠ほどのふくらみが肩口から端まで素早く走り、布の縁で消えた。反射的に手を離すと、シーツは床に落ちた。そこには何もいない。ところが拾おうと腰をかがめた私の手首を、布越しに五本の指が下から包んだ。握るというより、サイズを確かめるような触れ方だった。
声を上げて手を引き抜き、シーツだけを床へ残した。店の外まで逃げたものの、寝具を放置するのもためらわれた。ガラス越しに見ていると、白い布の中央が少しずつ盛り上がり、誰かが膝を立てて潜り込むような形になった。私は店内へ戻らず、たまたま清掃に来た管理会社の人へ事情を話した。彼は怪訝そうにしながら、長いモップの柄で布を持ち上げた。
持ち上がったシーツの下には、何もいなかった。ただし布だけは落ちなかった。人の肩ほどの高さで、見えない何かに掛けられたように形を保っていた。管理会社の人も黙った。次の瞬間、布の上から頭、肩、腕の輪郭が浮かび、その顔に当たる場所がこちらへ向いた。腕の部分が伸びて私の袖をつかむ。布越しなのに指先の硬さまで分かり、私は袖を脱ぎ捨てて店外へ走った。
管理会社の人もすぐ後から出てきた。振り返ったときには、シーツは入口の内側へ普通に落ちていたという。私は持ち帰るのを拒み、その場で処分を頼んだ。翌日、新しい寝具を買い、月曜の洗濯も別の店ですることにした。腕には傷も跡もなかったが、古い畳に似た匂いだけが数日取れなかった。脱ぎ捨てた上着も一緒に処分してもらった。
二週間ほどして、宅配便で新しいシーツが届いた。袋を開けたときは新品の紙の匂いしかしなかった。夜、ベッドへ広げて端をマットレスへ入れていると、足元の布がわずかに持ち上がった。手を止めると、それも止まった。私はシーツを剥がして床へ投げた。するとベッドの上、何も掛かっていないマットレスの表面が、人の手で内側から押すようにゆっくりへこんだ。
※本作は創作怪談です。
